ありのままが呼んだ満塁弾

 今シーズン不振で苦しんだ田中広輔が、鯉党の待つ真っ赤な右翼席へ美しいアーチを描いた。グランドスラムだ。正直、疲れ切っていた私は西武の野手陣が集まった所で風呂に入ろうとして、入浴剤を入れた矢先に実況と同居中の祖母の雄叫びが。私は耳を疑った。「入った、入った」確かに言っていた。急いでいくと、嬉しげな表情の田中広輔がカメラに抜かれ、カープ坊やのロゴに4点が加算されていく。田中、よくやった。勝てなかった春先、失策や不振で悪く思ってしまう節があった。フルイニングに拘る必要があるのか、と散々に。でも、田中は自分を貫いた。凄いと思う。惜しくも敗れたが、昨日の試合、負けてしまったものの、ノーアウト満塁の危機を救ったのが、田中の守備であった。そして、今日も好プレーを連発し、リズムを作り、大瀬良を助けた。感動すると共に、これほどまでに守備が安定すれば、打撃にも影響があるのかとも思った。

 微妙な修正は重ねていると思うが、ショートの守備も打撃フォームも、ありのままの田中広輔だ。自信を持って続けているからこそ、信頼が厚いのではないか。

 自信を持つ、それを継続するというのは容易くないはずである。私なんかは、人や物をモデルにしてそれに近づこうとすることで本来の自分を見失うことがある。 誰かを参考にしたり、真似したりすることは意外に自分の弱さから目を背けてしまう気がしてくる。自分の適性をしっかり見極めて、その経験の中で一番納得のいく自分を見つけ出し、雑音を跳ね除けることが成功に繋がるような気がする。

 あと一人、松山竜平も今季、ファンにとって物足りない結果に終わっている。偉そうに言うのは違うと思うが、いつものありのままの松山竜平で柔らかく強いスイングで不振を拭うような強振から生まれるアーチを期待したい。