ありのままが呼んだ満塁弾

 今シーズン不振で苦しんだ田中広輔が、鯉党の待つ真っ赤な右翼席へ美しいアーチを描いた。グランドスラムだ。正直、疲れ切っていた私は西武の野手陣が集まった所で風呂に入ろうとして、入浴剤を入れた矢先に実況と同居中の祖母の雄叫びが。私は耳を疑った。「入った、入った」確かに言っていた。急いでいくと、嬉しげな表情の田中広輔がカメラに抜かれ、カープ坊やのロゴに4点が加算されていく。田中、よくやった。勝てなかった春先、失策や不振で悪く思ってしまう節があった。フルイニングに拘る必要があるのか、と散々に。でも、田中は自分を貫いた。凄いと思う。惜しくも敗れたが、昨日の試合、負けてしまったものの、ノーアウト満塁の危機を救ったのが、田中の守備であった。そして、今日も好プレーを連発し、リズムを作り、大瀬良を助けた。感動すると共に、これほどまでに守備が安定すれば、打撃にも影響があるのかとも思った。

 微妙な修正は重ねていると思うが、ショートの守備も打撃フォームも、ありのままの田中広輔だ。自信を持って続けているからこそ、信頼が厚いのではないか。

 自信を持つ、それを継続するというのは容易くないはずである。私なんかは、人や物をモデルにしてそれに近づこうとすることで本来の自分を見失うことがある。 誰かを参考にしたり、真似したりすることは意外に自分の弱さから目を背けてしまう気がしてくる。自分の適性をしっかり見極めて、その経験の中で一番納得のいく自分を見つけ出し、雑音を跳ね除けることが成功に繋がるような気がする。

 あと一人、松山竜平も今季、ファンにとって物足りない結果に終わっている。偉そうに言うのは違うと思うが、いつものありのままの松山竜平で柔らかく強いスイングで不振を拭うような強振から生まれるアーチを期待したい。

孤立感深む背信の大学生活

 今年から大学へ進学を果たした。決して元々入りたくて入った訳ではない、といえば語弊があるかもしれないが、不本意な形であった。家族や親戚は「もっと上へ」をモットーに私を後押ししてくれたが、何とも悉く落選の通告を受け続けた。実際、この今通っている大学への合格に関して「おめでとう」という感じではなく、合格通知も受験で関東へ行っているときに届いただけで、実に無機質なものであった。元来自信のない私は、臆病なのに高望みをし過ぎた部分もあるのかもしれない。しかし、臆病だからこそ、自信がなく、“卑”屈の精神を身にまとまっていたからこそ、高望みをしたとも言える。改めて、受験では、是が非でも勝ちたかった。努力をしてもどうにもならぬ事がある、と分かっていたので、どうしてもその大学受験で勝利者になってみたかった。結局、結果を残せず、渋々受かった大学へ行くことが決まり、今に至る。大学に通い始めて約2ヶ月。未だに馴染むことができず、英語などの講義内でペアやグループを組め、と言われても私だけが余り、遠くを見ていたら、我慢し兼ねた教授が「こいつも入れてやって」と言い、私も頭を下げて既に出来上がったグループに泣き寝入り。恥ずかしさも苛立ちも含む何とも言えぬ感情に浸り、スーパーの前の自動販売機で購めた炭酸飲料を口にしてその感情を拭い、強烈な喉越しの中で完全に消し去る。もう何年こんなことをして惨めな自分から目を逸らし続けていくのだろうか。

 理想を掲げて必死に駆け抜けても手に入れられないことが多いのが、現実である。偉い人が定義する“平等”という概念が存在するはずがない。救われぬ人も居れば、理不尽な出来事に身を滅ぼす人も居る。それをどうすれば「幸せ」

だと捉えることができるのだろうか。いつどうなってもおかしくない冷たい現実の中で、当然早く「幸せ」になりたいという焦りも出てくる。自分のためにも誰かのためにもいち早く自分が「幸せ」だと信じ込ませ、安心をさせたい。その「幸せ」を手に入れるために一刻も早く、結果や功績を大きな理想や夢の中で得たいという欲望が膨れ上がる。

 しかし、自分自身密かに描いている理想や夢などを容易く語ることはできない。前述した通り、理想や夢が叶わないことが常の現実。それを含め、多額のお金を払ってもらって大学に行かせて貰っている立場ともなると、「何のための大学なのか?」「お金を出している身にもなれ」と言われると、酷く落ち込むだろうし、尚更に切り出しづらい。

 SNSなどで第一志望であろう大学に合格し、意気揚々と自身のプロフィールに進学先を掲載する勝利者を僻み、推薦を受けて進学した連中(元々嫌だった者)を妬ましく思いながら、世の矛盾を解き、悲嘆に暮れる生活が、夜の暗闇の中で自分の心の中で独り吠えている。

ああパスよ白星よ何処へ

途中出場のハイネルの躍動感あふれるプレーを楽しみにしていた私だったが、後半終了間際のパスミスに思わず、天を仰いだ。こんなはずでは無かった。失点直後に気付いたらピッチに居たハイネル。劣勢を跳ね除けてくれる選手だと、監督もサポーターも信じた。ただ、前の浦和戦のようなキレが無く、パスの判断と精度が著しく低かった。もちろん、一人を執拗に責めている訳ではないし、私達の期待値も高い。連携を強化していってほしい。

 全体的にボールを持たれ、押し込まれる展開が続いた中で、守備から素早い攻撃への切り替えが上手くいってなかったと感じる。後半、失点した後も、焦りからか不用意なミスが重なり、負けている状況であるにも関わらず、中々押し込むことが出来なかった。もっといえば、後半終了間際、相手のルーカス・フェルナンデスが2枚目の警告で退場し、数的優位に立った状況からも、決定的なチャンスは1度ほど。ほとんど相手ゴールキーパーに仕事を与えなかった。前線に渡、ドウグラス、パトリックを配置し、打開を図ったが、正直、もう少し早い段階で動いても良かったのではないだろうか。

やはり、前節の大勝を目の当たりにしただけに、喪失感は拭えない。このままの戦いをしていれば、上位に割って入るのは難しいし、中断期間とはいえ、大迫や松本泰が代表に合流するため、連携を深めるのも容易ではないはずであるし、怪我などをしない、という保証もない。このモヤモヤした感情をどう晴らせば良いのだろうか(前節勝った分、落ち込み度は多少マシ)

それから、いつになればあの2ndユニフォームをJリーグで着用するのか、というのも疑問である。そして、広島東洋カープが勝つとサンフレッチェ広島が破れ、サンフレッチェ広島が勝つと広島東洋カープが破れるというのも疑問である。それについて何らかの研究をしたいといつも思うのだが、どちらかが負けると腹が立つので、そんなことはどうでもよくなるのである。

中崎劇場・神宮編

雨の神宮は22時。9回、1点差で当然のごとく黄色のグラブと共に中崎翔太がマウンドに上がる。青木、山田、坂口、村上、雄平と続く好打順。カープファンなら誰しもが“覚悟”を決めたのではないだろうか。私も“覚悟”してとても速報を直視出来ず、電話して気を紛らわすに至った。先頭の青木、三振。やった。怖かった。次、山田哲人死球。菊池、會澤が当てられていたので、まあ。坂口、フルカウントから四球。ヤバイ、ヤバイ。“覚悟”できていたはずなのに身がすくむ。そして続く村上、三振。どうやって三振に斬ったのだろうか。小さくガッツポーズ。次も恐ろしい雄平。案の定、歩かせた。ツーアウト満塁。絶体絶命とはこのことだ。面白おかしくなってきて、笑いが止まらない自分が居た。迎えた奥村を追い込み、三球三振の文字がディスプレイに表示される。一番メジャーな「野球速報」のアプリを使ったことのある人はわかると思うが「三振」と「ホームラン」の表示に時々、惑わされることが多々ある。三振を知った私は、安堵で緊張の糸が解け、社会に出る準備にと、ニュースに目をやり、一日を振り返る。

 悲しみや苦しみの多い世の中で、遅い時間まで野球が楽しめる。長いシーズン、当たり前のように抑えて、当たり前のように勝つ試合ばかりではない。日々どこでどういうことが、あるか分からないけれど、ありふれた生活に感謝したい。中崎翔太投手はじめ、皆さま今日もご苦労様でした。

4番の走塁に見るチーム状況

8回、重信の放った浅いセンターフライが明暗を分けた。やや浅めのフライにも関わらず、3塁ランナーの4番岡本は本塁へ突入。微妙な判定でセーフをもぎ取る。この打球を放った重信としては、以前広島でやられているのもあり、してやったり、だったろう。ただ、私はあの判定がアウトであるように思えてならない。もう終わった事で仕方はないが、少なからず“何らかの見えぬ力”を感じてしまう。そしてカープの攻撃。9回2アウト2塁で小窪。ライト前へ打球を放つ。2塁ランナーはこちらも4番鈴木。1点が欲しい場面で、次の打席は今シーズン不調の田中。前進守備とはいえ、ライト重信の送球を考えると、本塁突入も有り得るなと思った。が、結果的に廣瀬コーチは手を回さず、後の田中に託すも凡退し、試合終了。連勝が11でストップ。ファンの中には、そもそも5番の西川にバントが必要だったのか、という疑問の声もあった。もし、絶好調の鈴木誠也が本塁突入で怪我をしたり、挙句、際どい判定で“何らかの見えぬ力”でアウト判定をされるのも分が悪い。色々な推測ができる。今日は負けてしまい、連勝が止まったが、色々な因果が重なり合って答えがその場の結果でしかわからないというのが、プロ野球の面白い部分だとしみじみ思う(最近は勝ち続けたので精神的に余裕があるだけ)

衝撃の森島 浦和を沈める

宿敵の浦和レッズを木っ端微塵にした。3連敗中の浦和との試合とはいえ、広島も5連敗中。こんな最高のゲームになると誰が予想したことか。シャドーの位置に入った森島司が先制ゴールを皮切りに、暴れ回った。ACLから好調を維持し続ける“モリシ”を止める者はもはや居ない。浦和の外国人達も悪質なタックルで止めるのがやっとだった。

 ただ、一つ気がかりなのが前半に途中交代したエミル・サロモンソンの怪我の具合だ。ベンチに下がってから立つことは出来ていたが、どのような状態なのかはまだ分からない。軽傷であると信じたい。

  チームの伸びしろとしては、縦へのパスの精度と決定力だろう。リーグ戦上位進出やACLで上に上り詰めるために、もっともっとそういった所を鍛えて、試合を優位に運べるようにしてほしいと思う。あと、今日ベンチ外となった野津田に関して、広島の人からの高い期待値をひしひしと感じるので、この森島の活躍をバネに選手同士が高め合うと、試合を見るのが更に面白くなっていくはずである。

 私自身、今日の“広島ダービー”は自宅でなく、グッズショップで観戦をした。普段、アウェイの試合を一人で見るよりも、ポジティブな感情が持てるので好きだ。今日は、浦和相手に4発と無失点。今までの失意が嘘のように、興奮を覚え、見知らぬおじさんとハイタッチを交わしてしまった。「寿司じゃ、酒じゃ」と狂喜乱舞する見知らぬサポーターの嬉しそうな顔を見て、微笑んだ。サンフレッチェが勝つと、月曜からの生活も頑張れる。まだ未成年の私は、コーラを口に含み、至福の日曜日に疲れを癒す。

 最後に、心なしか、皆川佑介の顔色が、スタートから良かったのが、嬉しかった。

KJ通算50勝 11連勝貯金10

 今日の広島巨人戦は、痺れた。というか、かなり疲れた。8回、好投していたKJが山本の被弾から集中力を欠き、降板。途中から出てきたレグナルトが坂本に2ランHRを打たれたときは、東京ドームならではの独特な雰囲気に飲み込まれ、どうなることか、と見ていられなかった。なんとか後続を断ち、迎えた9回の中崎。また例のごとく中崎劇場の始まり、始まり。先頭の要警戒ゲレーロに長打。もう1点は覚悟していた。けれど、田中広輔が救ってくれた。「1日1善」というのがしっくりくるのだろうか。田中広輔選手には失礼かもしれないが、開幕からかなりファンの間でも厳しい声が後を絶たない。それでも勝負の分かれ目となる守備でチームを救い、劇場のヒーローとなった。選手個人に手厳しい原監督とは対照的な緒方監督は苦しむ田中を褒め称えていた。それが勇気付けになり、元の状態になると信じているのだろう。

 打線の方は相変わらずの好調で、バティスタが大きな大きな一発。大学でスペイン語を専攻している私にとってドミニカン(フランスア含め)の活躍に学習意欲が増す。鈴木誠也、西川龍馬の3人に打席が回ると、試合が動く予感がぷんぷん漂ってくる。

 クリス・ジョンソン。今年は開幕から出遅れて、本来の投球が出来ておらず、二軍降格も囁かれていた。しかし、ここに来て失点を許すことが減り、通算50勝を達成。来日5年目、日に日に他チームの研究が進むことで助っ人の活躍が難しくなるのではないか、と私自身思う部分もあるが、カープの頼れる左腕として結果を残してくれている。今日のジエンゴも素晴らしかった。雨にも負けず、風にも負けず、夜にも負けず、女房役の石原と二人三脚で頑張って頂きたい。

 勝つと、気持ちがいい。嫌なことがふと現実に舞い込んできても、勝つと、少し忘れられる。さて、26日はカープだけでなく、サンフレッチェも試合を控えている。カープと対照的に調子を落としている紫は、リーグ戦5連敗中。相手は因縁のライバル・浦和レッズ。両チーム共、アウェイ関東の地で広島の底力を見せつけてほしい。